本:伊藤邦武『プラグマティズム入門』

伊藤邦武『プラグマティズム入門』(ちくま新書、2016)

 タイトル通りの入門書だが、「哲学思想としてのプラグマティズム」を主題にしている。主に探究・認識・科学・真理・論理・数学・メタ哲学(哲学とは何か、など)といった話題が念頭にあるのだろう。

哲学思想としてのプラグマティズムは、当然ながらわれわれの認識の正しさや真理性の特徴を明らかにすることを課題とする。しかし、この課題を果たすためにこの思想が行うのは、認識の真理性の絶対的な根拠を求めることでもなければ、その可能性の理由を定義することでもない。プラグマティズムが問おうとするのは、真理を求めようとする場面にあって、われわれ人間が採用するべき対話の形式や、問答の枠組みのあり方である。それは真理や価値の最終的な決定であるよりも、その「追求」のスタイルの反省である限りにおいて、開かれた柔軟な哲学という特徴をもっており、そしてまさにこの特徴のゆえに、多くの哲学者たちのアイデアを受け入れ、吸収する力をもってきたのである。(p. 11)

 類書で定番の教科書としては、魚津郁夫『プラグマティズムの思想』(ちくま学芸文庫、2006)がある。魚津の本では、アメリカの文化、ソローやエマソンなどの思想から入り、パース、ジェイムズ、ミード、デューイ、クワイン、ローティまでを扱っている。また、テクストからの引用が豊富にあり、扱う範囲も宗教・倫理・政治思想などと幅広い。

 伊藤の本では、第1章で、プラグマティズムの「源流」として、パース、ジェイムズ、デューイを紹介している。

 第2章では、20世紀半ばから1980年代までの流れとして、クワイン、ローティ、パトナムを紹介している。ローティまでは魚津の本と重なる。

 第3章は、ローティ以降の現代プラグマティズムの流れとして、ブランダム、マクダウェルマクベス、ティエルスラン、ハーク、ミサックを扱っている。この辺りの議論を扱っている新書はあまり知らないので、けっこう有益だ。